My Precious Life

猫とロカボと筋トレと。たまにスピリチュアル、ヨガや美容について。

天国に旅立ったネコと死者の声 vol.2

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大和駅にあらわれたお嫁さんは、大柄で丸々としたかわいらしいお顔の女性だった。右手で小さい男の子の手を引き、もう片方の手で茶色のペット用キャリーバックを持ち、おんぶと抱っこで二人の赤ちゃんを背負ってパタパタと私の前にやって来た。

 

「お待たせして、すみませーん!」

 

ニコニコしながら、ちょっとだけ小走りで真っすぐ私のもとに駆け寄ってきたお嫁さんは、「良かったー、会えて良かったー」と、良かったを2回続けて言った。

 

「すみません、息子が水ぼうそうにかかってしまって。顔がブツブツでちょっと気持ち悪いですけど」

 

そう言って、かたわらに立つ小さな男の子に、ほら挨拶して、とお辞儀を促した。恥ずかしそうにしている男の子に私から「こんにちは」と声をかけると、小さい声で「……こんにちは」と返ってきた。私には子供がいないので、こういう時どんな風に話しかけたらいいのかわからず、いい歳して少しもじもじしてしまった。

 

それを察したお嫁さんがすかさず、「これがレオ君です」といって、プラスチック製の茶色いキャリーケースをグイっと私の前に差し出した。

 

そっと中をのぞくと、キャリーケースいっぱいに茶色のモフモフが納まっていた。猫の身体のサイズとキャリーケースのサイズがあっておらず、隙間なくぎゅうぎゅうに詰め込まれていて、中で身動きが取れないような感じだった。頭から入ったはいいが、方向転換できず、入口にお尻を向けた形で座っていた。

 

「わあ、おっきいですね!」

 

これがレオさんを見た時の私の第一声だった気がする。空気を取り込むために編み編みになっているキャリーケースの隙間から、茶色いフワフワの毛がいっぱいはみ出していた。

 

「大きいだけじゃなくて重さも結構あるんですよ!持ってみます?」

 

お嫁さんは「よっこいしょ」と言いながらキャリーケースを地面に置き、私のほうを見てニカっと大きく笑った。続いて私がキャリーケースを持ち上げると、右腕にずっしりとした重みが走った。楽天で間違えて購入してしまった5キロのダンベルより重い気がした。

 

再びお嫁さんがキャリーケースを持ち、レオさんの顔を私に見せようとがんばって上に持ち上げてくれたので、「レオくーん(この時はまだ君付けだった)」とお尻に向かって小さく呼びかけてみた。そのキャリーケースは猫が出入りする前面だけメッシュっぽくなっているのだが、それ以外はプラスチックで覆われていて、ところどころに小さな空気穴が開いているタイプのモノだった。

 

「あーこれじゃあ、顔が見れないですよね」

 

ケースの中で身動きの取れないレオさんは、顔を前面に向けることができず、後ろを向いたままじっとしていた。私はその様子がなんだかおかしくて、お尻のところをチョイチョイしながらちょっと声を出して笑ってしまった。

 

「まあ、でもなんとなく、手触りとかでも分かったので……」

 

そう言いかけた時、レオさんのお尻がもぞもぞと動いた。そして次の瞬間、狭いケースの中で方向転換しようとしたレオさんが、顔をグーッとこちらのほうに向けたのである。

 

「あっ……!」

 

その時、レオさんと初めて目が合った。そして数秒間、お互いにしっかりと見つめ合った。狭いところで無理やり動いたので、顔がちょっとムニュっとなっていたけど、チンチラらしい丸顔とパッチリした目が印象的なイケメンくんだった。

 

その顔を見て私が(わあぁ!!かぁ~わいいぃ~!)と心の中で叫んだとき、「ここから出すにゃ!」という男の子の声がハッキリと聞こえた。え?と思ったけど、何か言いたげに私の目をじーっと見つめるレオさんを見て、あ、この子の声か、と悟った。

 

私は死者の声は聞こえるけど、動物の声は聞こえない。だから、5年前のあの声も正体は分からない。けど、初対面で、しかも見ず知らずの女性に、「出して」でも「助けて」でもなく、「出すにゃ!」という命令口調は、やっぱりレオさんだったのかもな……と思うのである。